どうして……こんな、身体が、あ、あ、がくがくする……
違う……ぁっ、あっ……また……
入ってくるよぅ……何で、こんな……気持ちいい、もう分かんない……うそ……すごいの……気持ちいいよぅ……あんっ、あっ、あ、っ……!
「愛しています」
荒い息に覆い尽くされて。
意識が、断片になってかすれ飛ぶ。
「ゾーイ」
耳元で何度も、名を、呼ばれる。
自分とは、違う名を。
ゾーイ。
すべての音が、潰え去る。
その名前だけが、壊れた器械のように頭の中で反響していた。
「ゾーイ」
また、アリストラムが喘いだ。胸に、ゾーイの刻印をくろぐろと宿して。
「……愛しています……」
「や、だ……違う、あたし……あたしは……!」
刻印に宿されたゾーイの色が。ゾーイの声が。まとわりついてくる。
どうして……!
もう、ゾーイはいない。
もう二度と戻っては来ない。
笑ってもくれない。
突然襲ってきた人間に、殺されて、
里もろともすべてを焼き尽くされて、
眼を灼き潰すかのような、あの銀の光炎に呑み込まれて。
ゾーイは、死んだ。死んだ。死んだのに、どうして――!
心は――抗っている、のに。
身体が、溶けてゆく。
喘いでいる。
求めている。
たとえ、ラウ、と一度も――呼んでくれなくても。
どうにもならないまま、アリストラムの欲望をどろどろと受け入れてゆく。
欲しい、もっと欲しい、戻れなくなるまで、もっと、奥底まで突き抜けるほど揺さぶって欲しい、罪でつらぬいて欲しい、全部、全部欲しい……!
急激に呼び覚まされた狼の本能が、情念となってあやしく、汗ばむほどにラウの身体を波打たせて、とろとろに染め上げていく。
もう、戻れない――
むせかえるような欲情の吐息が立ちのぼってゆく。
互いの身体を奪い取るようにして抱き、つぶさにくちづけて、快楽にとろけるところを音を立てて擦れあわせる。
快楽におぼれ、刻印に牙を立て、弾けこぼれそうな乳房を振り乱して命を喰らい、意識を喰らい、どろどろに混ぜ合わされた欲情をすする。
つながった腰を揺すり立てては泣き。
後ろから突き上げられては毛を逆立てて喘ぎ。
歓喜の悲鳴を洩らして身をよじり。
喉の奥までアリストラムのものをくわえて、一方では舌で、唇で、自分のものを愛撫されながら、喘ぐ獣の本性そのものの姿を、だらだらと晒して。
「……アリス……ぅうん……」
ラウは、ラウとつながったままのアリストラムにしなだれかかった。
乱れきった息がまだ元に戻らない。
身体の奥底に潜んでいた欲情が、総毛立つ泡の音にまみれて暴き出されてゆく。
泣きながら貫かれ、揺すられ、濡らされえぐり抜かれて。
それでも、まだ。
足りない――
「……ありしゅ……ぅ……たすけて……どうしたらいいの……きもちいいのが……止まんな……止まんないの……!」
べっとりと濡れて淫猥な光を帯びたアリストラムの髪にくちづけ、耳朶を舐め、頬を手挟んで自らくちづけながら濃密に舌を絡め、ぶるぶるとふるえる。
「……やだ……もういやぁ……たすけてアリス……ぁ、ん……、もっ……と……して……やだ、ぁ、あっ、きもちいい……んっ……!」
「ゾーイ」
刻印に支配され、くろい影にまとわりつかれたアリストラムが、ラウの耳元でぬるりとささやき入れる。
狂い壊れた笑みが、近づく。
「愛して……います、ゾーイ、貴女だけを……死ぬまで愛し続けます……」
「ぁっ……あっ……!」
とろとろと愛液がしたたり落ちるのに混じって、また、噴き出すような熱い飛沫が身体の中からあふれ、どろり、と内股を濡らし、尻尾を伝ってしたたり落ちる。
白い、濁った液体が、地面に跳ねる。
分かっているのに、止められない。
刻印が呼び覚ましているのは愛でもただの欲望でもない。狂気だ。
こぼれ揺れる乳房を揉み掴まれ、すくい上げられながら、ぐらぐらと重く揺すり上げられる。
発情しきって赤く充血し張りつめた乳首を、押しひねられ、転がされ指でじわじわと愛撫され、おもちゃのようにもてあそばれては、また――
ラウは涙と快楽にかすんだ眼でアリストラムの視線の行方を探した。
ラウの身体をむさぼり、ラウの身体に溺れながらまるでラウを見ていない。ただ遠い、遠い死の果てを見つめて微笑んでいる。刻印の影にいろどられ、闇に呑み込まれて。
「ゾーイ」
姉として族長として、愛し、尽くし、憧れてやまなかった美しき暴虐の女王。
比べるまでもなく永遠に遠いその名を、耳元で残酷にささやかれながら。
絶頂へと、押し上げられてゆく。
「ゾーイ」
違う女の名を呼ばれながら。
腰を後ろから抱かれ。
揺り動かされ、中を突き上げられる。
「ぁっ……はあっ……!」
乱れ散る吐息。
突き上げられ、かき回される快感に、髪を乱し。
「きもち……いいの……んっ、ううんっ……!」
喉をそらし、声を悲痛にうねらせて、喘ぎ、よがる。
中で、アリストラムのそれが、ぐちゅ、ぐちゅと泡だった音を立てて動いている。
入って、引き抜かれて、そのたびに狂いそうになる感覚が身体の中を出入りして――そのまま、突き上げられる。
何度も、何度も、何度も。
「んっ、っ、こんな……の嫌ぁ……ぁ、あっ……もっとして、ぁぁん……こわれ、ちゃう……すご……い……の……!」
違うと――分かっているのに。
その思いを、振り払うこともできずに。
ただ、乱れ堕ちてゆく。
好き。
だいすき。
ずっと子供じみた意地を張って、わがままを言って、反発してばかり――なのに、何を言っても優しくうなずいてくれたアリストラムが。
甘えさせてくれたアリストラムが。
本当は、だいすきだった。
いじわるな顔をして。
くすくす笑って。
いけませんよ。そんなことをしては、と。
ちょっと怖い顔で叱ってくれるその声が。
たまらなく好き、だった。
ときどき、ラウの知らない顔をするアリストラムがいて、どこか遠くを見ていることがあって、そのときは確かにちょっと怖かったけど、でも、それは、もしかしたら、アリストラムがどこかに行ってしまうんじゃないかってやきもきして……不安でしかたなくて……
でも、眼が覚めたらやっぱりずっと傍にいてくれて、ほっとして安心して。
そうしたら逆に、オトナで、保護者のくせに、そんな心配をさせるアリストラムのことがやたらに腹立って、またわがまま言って、わざと怒られるような悪いことをして気をひいて。
でも、本当は、構って欲しくて。
叱ってほしくて。
そばに、いて欲しくて。
なのに。
どうして。
こんな、ことに。
耽楽にくずれ落ちた身体を取りつくろうこともできず、肌を合わせ、腰を浮かせ、男の力で押し開かれ、突き破られながら。
よがり声で甘え泣き、唇で、乳房で、男の部分をくわえ、足を開いて、あさましくもねだる。
なめずり、むさぼる。
暗黒の花が、いくつも咲き乱れる。
淫靡に波打ち、のたうち狂う乳房。
アリストラムは。
きっと。
こんな――けだものみたいな交尾《セックス》――望んでない……。
なのに。
ほかの、おんなのこと、なんて、かんがえてほしくなくて。
自分だけを、見て欲しくて……!
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