うわずった声が、みるみるあふれ出す。
「はぅ……んっ……」
悦びが、とろとろしたたり落ちる。
アリストラムの指が、押し広げられた身体の奥へとぬめり入る。
一本、くねり入っては戻り、中のざらりと濡れた肉に触れ、次にまさぐるときには指が二本に増え、意地悪く広げて、強く――
にじんだうるみが、くちゅん、ぷちゅ、にゅちゅっ……と、甘い音を立ててあふれ出した。
「ゃ、ぁっ……恥ずかし……変な音……させないで……」
「私は好きです。貴女が私を感じてくれている証拠だから。私のラウ、可愛いラウ、わがままなラウ、大好きなラウ……」
夢みるような優しい声が、甘やかに濡れた敏感な花芽に触れる。優しく、うつろうこともなく、ゆったりと愛撫し続ける。
「貴女の全部が、好きだから」
「う……んっ……」
ちいさな、みだらな音。
「また聞こえましたね」
どんなにかたく眼を閉じても、耳を伏せても。
「可愛い音です」
「く……ぅん……っ……!」
「ここも、音がしますね?」
今、何を、されているのか――
どこに、何に、触れられているのか。
分かる。
身体の、なか。
身体の、一番、中心。
とろり、と、器用に泣かせる指に嬲られ、いたずらされ、ゆっくりと、時に乱暴に、出たり……入ったり……弄ばれたりして……
でも、もう、だんだん、それが自分の身体のどのあたりのことなのかも次第に分からなくなって――
いつの間にか、全部、はだけられ脱がされていることにさえ気付けないでいる。
すべてを、ゆだねて。すべてを、預けて。
瞼の奥の眩暈がきらめくようだった。いくつもの指が、別々の音を奏でるかのように、意地悪に動き始める。
触れられたそこだけが、言葉とはまるで裏腹な身体の反応を正直に示して、吸い付くような、泡立つような、くちゅん、と、卑猥に濡れた音をたてている。
「ぁ、あ、あ……やぁっ……っ……」
ゆるゆると円を描いては、愛撫しつつ出入りする指にたやすくも操られ、背中をきつくのけぞらせて、喘ぐ。
「可愛いですよ、ラウ。可愛すぎます」
「ぁ、あ、ばか……あっ……」
力なく萎えた尻尾で、アリストラムの横顔を叩く。
「くすぐったい尻尾ですね」
「はぅ……んっ」
あっけなく尻尾を払いのけられたばかりか、その奥の、きゅっと窄まったところを見られて、ラウは鼻声をつまらせた。
「ばか、分かってる、くせ……にっ……いじわる……ゃぁっ……みな、見ないで……くうぅぅん……ぅぅん……きゅぅ……ん……!」
「すみませんね……実は、わざとなのです」
アリストラムはひそやかに笑ってささやく。
「その子犬みたいな声も……大好物なので」
「ばか……あっ、ぁっ……ううん……くぅうん……きゅん……ぅん……くぅうん……っ!」
歌うような、甲高い快感がさざ波となって身体全体に響きわたった。痺れてゆく感覚に全部をあずけて、そのまま、腰から下を投げ出したくなる。
ひ、くっ……と、なかが震える。
「もっと、貴女の声が聞きたい」
抗えない足を持ち上げられ、ゆっくりと押し開けられる。
「聞かせて下さい」
自由の利かない恥ずかしさのあまり、ラウはぶるぶると頭を振る。
金具の外れるような音が聞こえた。
「ラウ」
ふっ、と。
銀色にゆらぐ影が、堅く閉じた眼の向こう側から垣間見えたような気がした。暖かい、肌の触れる感触が胸に覆い被さる。
首筋にむさぼるような唇が押し当てられる。全身が腕に抱かれる。胸元から首筋、うなじにまで、熱い吐息が吹きかかった。重みが、ぐっとかかる。
いじましいほどの想いが、膨れあがってあてがわれている。
らしからぬ熱、らしからぬ情欲。いつもの、ふざけるような、からかうような、乙にすました声はもう、そこにはない。
「貴女と、ひとつになりたい」
食い入るように、突き破るようにして押し当てていながら。
未だ、最後の求めを、ラウがうなずくのを――待っている。
待ってくれている。
「あり……しゅ……」
ラウは、アリストラムの唇を求め、腰を泳がせてあえいだ。
「やだ」
「えっ」
もう、ちょっと。
もう、少しだけ。
いじわる……されたい……
「案外、手強いですね」
アリストラムは低く笑った。
「貴女が、その気なら」
くすっ、と笑われる。
「眼を閉じて」
「……えっ……?」
「いいから、ほら」
手で、目をふさがれる。まわりが見えない。ラウは、急に、胸が、どきどきし始めるのを感じた。心臓が苦しい。
「いったい、何を……するつもり……?」
「たいしたことはしませんよ。ただ、貴女に――お預けされた自分が、悔しいだけです」
「え……? あっ……」
ふわり、と。
頭に、白い布がかけられる。
「な、なに?」
「眼を開けてはいけません」
「ええっ……ちょっと……な、な、何……!?」
「開けてはいけないと言ったでしょう」
アリストラムは低く笑いながら言って、ラウに目隠しをした。
心臓が、破裂しそうだった。どき、どき、して、顔が、もっと、赤くなって。眼を開けるな、とアリストラムは言ったけれど、それどころじゃないぐらい、自分でも、開けられない。
いったい、何をされるのかと思って、身体が、怖さと、いけない期待で、胸が高鳴って。
くるしくて、喉の奥が、からからになって。
「アリス……何……してるの……? ねえ……?」
「手を後ろに組んで」
「え!?」
「ほら、早く」
「えっ、えっ、……!?」
「それから、これは……安心してください、聖銀の首輪ではありませんから」
鎖の音が、かろやかに聞こえる。
「えええっ!? ちょっ……あっ……あっ……!?」
かちゃり、と。
おもちゃのような音とともに。
やわらかな肌触りの首輪がはめられる。後ろ手に、そっと手首を回されて。
「あっ……」
同じ柔らかさの紐で、きゅ、と腰のところで、手首を縛りあわされる。
ラウが、びく、っ、とふるえて、動くたびに、首の甘い恋の枷と手首をつなぐ鎖が、官能的な音をたてて揺れ――
「あ……!?」
「鎖には余裕もありますから、動くのは苦しくないと思いますよ」
「い、いや、ちょっと、待って、縛られ……!」
「……ぞくぞくしますね」
「ぇっ……」
「そんな……姿の貴女が見られるとは」
ぎし、と軋むソファベッドの音が。
近づいてくる。
気配が。
アリストラムの、体温が。
乱れて、うわずった吐息が跳ね返って感じられるぐらいに、近く。
「ぁ……」
「口を開けて」
「……っ……!」
頬を挟んだてのひらに、そっと、いざなわれる。
もしかして……ぁ……っ……
まわりが、見えないのを良いことに……ぁっ、あ、そんな……
うそ……もしかして……?
胸が、どきどきして。くるしいぐらい、息が乱れて。
目隠しされて、後ろ手に縛られて、束縛されて、身動きもできなくて……!
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