" お月様
お月様にお願い! 

1 お月様にお願い!

 今までとは比べものにならないぐらい、激しく、抱かれる。 
 熱い吐息が乱れ飛ぶようだった。悲鳴と一緒に、快楽のあえぎがこぼれる。泣き声が尾を引く。
 突き上げられるたびに、乳房が上下左右、跳ね上がるようにして揺れ、ちぎれそうに振れる。
「ぁ、あっ、気持ちいい、いい、……っ、すごい、ぁ、あんっ、ルロイさん、すごい……あぁんっ……中、ぐちゅぐちゅ言って……や、だ……はずかしい……!」
「恥ずかしくなんかない。もっと声を出して。もっと、もっと、気持ちいいって言えよ」
「ぁあっ……あ、あっ……ううんっ……そこ……う、んっ……!」
「その声、すごく……好きだ……もっと言ってくれよ。俺も、もっと、シェリーに気持ちよくなってもらいたいから」
 ぐっ、と、小刻みに突き入れられたかと思えば。
 一気に、引き抜かれ。
 身体の奥までがからっぽになりそうな、心許なさに息をつまらせた、とたん。
 信じられないぐらいの快感が、身体の中を塊になってつらぬいてくる。
 こねまわされ、こすりあげられ、ぐちゅ、ぐちゅ、音を立てて掻き回される。
 壊れそうなぐらいの荒々しさ。激しさ。嵐みたいな欲望が何度も突き入れられる。
 そのたびに、ふいごみたいに恥ずかしい喘ぎ声が押し出された。
「気持ちいいの……あ、あ……ルロイ……さん……ぜんぶ……!」
 出入りする巨大なルロイの男の部分が、シェリーの女の部分を、どろどろに濡らしながら押し広げてゆく。
 くちゅん、くちゅん、音を立てて。
 ぬらぬらと濡れた熱を突き込まれる。ぬるり、じゅぷり、と、腰で円を描くようにして全体を掻き回される。
「ぁん、あふっ、ううん……ぁぁ……っ!」
 中を擦られて、くちゅ、ぐちゅ、濡れた音が飛び散る。
 そのたびに、身体の中に電流が走り抜けてゆく。
 あまりに気持ちよすぎて、喘いで、悲鳴を上げて、全部見られながら、足を広げて、全部受け入れて、よがって、求めて、悶えあい、むさぼりあって。
「ぁ、っ、気持ちいいの……すごい、気持ちいいの……ルロイ……もっとして……もっと……ぁっ、あっ……!」
 乳房が、一段と激しく、メロンみたいに跳ねて、揺れ動く。
「ぁんっ、ああっ、う、うっ……んっ……ひっ、ひくっ……気持ちいいっ……いいの……!」
「シェリー……!」
「も、も、だめ……ぁ、っ、どうしたらいいの……!?」
「イッていいぞ」
「わ、あ、わかんない……! どうすれば……ぁっ、あっ、ぁぁ、う……!」
 ルロイの腰使いが、小刻みに揺れ動くような、誘うような、誘惑の律動に変わった。
 内臓全体に響くようなしびれが、腰の奥、背筋にまで突き抜ける。
「ぁ、んっ……全部当たってる……! は、ぁっ……いい……きもちいい……動いて……ぁ、あ、どうしよ……あんっ……気持ちいい……!」
 触れたところすべてがきらめく快楽の色に変わり、金の砂みたいに弾けてゆく。
 音を立て、階段からこぼれ落ちる無数の鈴のようだった。
 喘ぎ声が飛び散る。
「ぁっ……あっ……だめ……そこ、そこ、いいの……すごい……だいすき……ルロイ……ああ、これ、イっちゃうの……たぶん、わたし、ぁ、あ、イッちゃう……!」
「大丈夫だ、俺も、イくよ……気持ちいい……シェリーの中、すげえ……ぁぁ……たまんない……全部、出る……っ……!」
 身体の中に、熱い飛沫があふれた。湯の噴き出すような感じがほとばしり出る。
「ぁ、んっ……!」
 とぷ、ん、と音をさせて。
 ルロイは、まだ、ぬらぬらといきり立ったままのものを抜き取った。
 血管を浮き上がらせて反り返ったかたちが、そのまま際だった影となって地面に落ちている。
 シェリーは、ひくん、と、ふるえ続ける身体を熱く夜気にさらし、のけぞった。
 吐息が、みだれて。
 立ちのぼる。
 入りきらずにあふれた液体が、地面にだらりと流れ出る。
 ルロイは、シェリーの身体に指を差し入れた。
「んっ……!」
 指を開いて、快楽に赤く充血しきったそこを押し開く。
 びしょびしょになった股間から、どろり、どろどろと、白濁の入り交じった大量の液体があふれ落ちた。
「ぁ……んっ……」
 びくん、と、震える。
「ぁ……」
 まだ、快楽の余韻が痙攣となって残っている。
 動けない。
「シェリー」
 ルロイが屈み込んで来た。
 目の前が、ルロイの影で暗くなる。
「綺麗だよ。すごく、綺麗だ」
「……っ……ふ……ルロイ……さん」
 唇が、吐息をうずめつくす。
「……まだ……ルロイさんが……残ってる……みたいな気がします……ぁ……ううん……っ」
「痛くなかった?」
「……は、はい……」
 シェリーは、上気した頬を、さらにほんのりと染めた。
「大丈夫です……」
「俺、調子に乗って乱暴なこと、してた?」
「……いいえ……」
 声が、うわずった。
「ルロイさんは……ずっと優しかったです……」
「ありがとう」
 ぎゅ、と強く骨張った腕で抱きしめられる。ほおずりしてくるルロイの腕の力は、苦しいぐらい強すぎたけれども、でも。
 その強さが、すごく、ここちよくて――
「気持ちよかった?」
 シェリーは思わず息を吸い込んで顔を真っ赤にした。
「……は……はい……すごく……」
 恥ずかしさに、心臓が、また、どきん、どきん、音を立て始める。
「……気持ちよかったです……!」
「そうか。うれしいな。嬉しいけどさ、それ、」
 ルロイは声を上げて笑った。
「素直すぎるだろ。もう、シェリー……可愛すぎて俺、また堪んなくなってきてんだけど。もう一回ヤってもいいか?」
「ええ……今……すぐ……?」
 シェリーは、弱々しく笑った。
「そんな……体力ないです……」
「ダメなのか」
「ダメ……じゃないですけど……」
「じゃ、ヤる」
「でもわたし……もう……動けません……」
「えー、無理なのか?」
 ルロイはむすっと拗ねた顔をしてから、いたずらっぽく笑った。
「冗談だよ。無理はさせない。安心しろ」
 ルロイはぎゅ、とシェリーをかき抱いてキスした。
「ああ、もう、発情期なんてもう関係ないな。生きてる限りずっとこうやってシェリーを抱いて、一緒にいたい……でも、今夜は、もう、やめとこう。疲れただろ?」
「ルロイさん……」
「まあ、発情期終わるまでどうせ時間はたっぷりあるだろうしな。ええと、次の満月までだとして、あと何日だ?」
 とろとろに潤んだ眼で、シェリーは空を見上げた。月影を探す。
 青い光が、しずかに森を照らし出していた。
 まん丸い月が、ぽかりと浮かんでいる。
「今夜のお月様が……その、満月だったみたい……です」
「ありゃ?」
 つられたルロイが空を見上げる。
「……ホントだ」
 心許ない風が、森を吹きすぎてゆく。シェリーは、ふと寂しくなって、気弱に笑った。
「じゃあ、夜が明けたら……さっきまでのルロイさんとはさよならなんですね」
「え?」
 ルロイは、虚を突かれた顔をした。
「え、と、だから、その……発情期、っていう時期だったから、わたしに……その……」
 ルロイにすがりつきたいのを、我慢して。
 うつむく。
 シェリーはあえて口元をにっこりとほころばせた。
「もし、今夜で、その……発情期っていうのが終わりだったとしても……わたしのこと、嫌いになったり……しないでくれますか……?」
「あ、いや」
 ルロイはかすかにうろたえた。
「それは、そのぅ」
 気後れしたようなルロイの表情に、シェリーはふいに、ぎくり、とさせられた。
 急に心細くなって、眼を伏せる。
 やはり、そうなのだ。
 さっきみたいに、優しくしてくれたり、かまってくれたりするのはルロイの言う発情期だったから、なのだ。
 だから、その期間が、終わってしまったら。
 もう……
 自分には興味がなくなるのかもしれない。
 傍には、いられなくなるのかも、しれない。
 それどころか、もう、嫌われて、追い出されてしまうかもしれない……!
 おもわず涙がこぼれそうになるのを必死にこらえ、シェリーはくちびるを噛んだ。
「ぁ……ごめんなさい……わたし、何か勘違いしてたみたいですね」
 頑張って笑おうとして、顔を上げる。
「何でもないです、ぜんぜん」
「シェリー、あのさ」
「ううん、気にしないでください。あの、わたし……別に、その、あの……ルロイさんに迷惑かけたいわけじゃないので……!」
「いや、だからさ」
「ほ、ほんとに、もう、その……」
 シェリーは耐えきれず、ルロイの視線から逃れようとしてよろめき離れた。
「どこ行くんだよ、シェリー」
「何でも、ないです……ごめんなさい! ホントに、わたし、その……!」
 泣き虫の顔を見られたくなくて、ルロイに背中を向ける。追いかけてきたルロイは、そっとシェリーの肩に手を置いた。
 びくり、と身体を震わせる。
「そんなに怖がらなくていいって」
「……分かってます……」
「いや、シェリーは全然、分かってないと思うよ、発情期のこと」
 ルロイは、ためいきをついた。
「あのさ、俺の話、聞いてくれるかな?」
「……はい……」
 きっと。
 もう、あんなふうに。
 優しく、抱きしめてくれることはないのだろう。
 ルロイの発情期は、今夜で終わりだ。
 満月が来れば終わる、と、他でもないルロイ自身がはっきりと断言したのだから。
 朝が来れば、もう――