" お月様
お月様にお願い! 

1 お月様にお願い!

 ふっ、と。
 月がかげった。
 青い光が薄暗がりに変わる。ざわざわと森が揺れて、暗い、優しい雲の影に覆われる。
「ぁっ……!?」
 ぱしゃん、と水が跳ね上がった。
「ぁっ、あっ……い、今、何て……?」
「いや? 別に? 何でもないよ?」
「な、何でもないって……ぜんぜん、そんな顔してないじゃないですかっ、ルロイさんったら……も、もしかして、次の満月までっていう話は、ちょ、ちょっと……嘘だったんですか?」
 ルロイはひょい、とシェリーの小脇に手を入れ、からだごと抱き上げた。
「ぁっ、何、きゃっ……!?」
「嘘じゃないって。いったん発情したら、次の満月の夜まで、ずっと続く。それは本当だ」
 抱かれたまま、腰を添わせるようにして、ゆっくりと下ろされてゆく。
 人形のように抱き上げられたシェリーは、落とされないよう、ルロイの首にしがみついてじたばたした。
「ぁっ、あっ、下ろさないで……あ、当たってます、ホントに、あの、当たってます……ああんっ……!」
「そうそう、足を絡めて。しっかり掴まれよ?」
「ま、待って……ぁ……ゃあんんっ……また……それ以上……下ろされたら、また、入っちゃう……ぁっ……!」
「いや、発情期は、確かにさっきの満月でいったん終わり。俺的には完全に満足したからね。でも、また連続でハァハァしちまうから、結局は次の満月まで続く、ってこと。分かる?」
「そっ、そんな、無理にされなくていいですっ……ほ、ほら、ルロイさん、満月ですよ……お月様です……あっ、あっ、見てください……綺麗なまんまるですっ……!」
「いや、また始まった。我慢できない。もう一回やる」
「……って、そんなあっさり! ぁ、あっ……ゃあっ……ほ、ほんとに、それ以上下ろさないでくださ……ぁ、あっ、落っこちちゃう……!」
「だからしっかりしがみつけって言ってるだろ」
 大きく開かされた足を、何とか閉じようと身体をくねらせ、膝をもじもじさせるものの。
 それは結果的に、ルロイが勃起させているものの先を、ぬるぬると滑らせ、位置を探らせただけに過ぎなかった。
 こすれた部分が、ぬぽ、と音を立てて、くねり入ってくる。
「お、下ろさないで……やんっ……さ、ささってます……ささって……ぁうんっ……!」
「よし、入ったな」
「ああんっ、だめ、抜いてください……下ろしちゃだめ……やあんっ……入っ……もう……む、むりです……待って……」
「無理。待たない。挿れる」
「入っ……ぁあっ……あっ……どうしましょ……入っちゃう、入っちゃう……って」
 シェリーは、一瞬、口ごもった。
「……あ……」
「どうした?」
「入っちゃいました……」
「報告ありがとう。じゃ、動かすぞ」
「ぁっ、あんっ! 待って、おねがい、揺らさないで……落ちちゃいます……ぁっ、あっ……!」
「手を離すなよ。落ちるぞ」
 ルロイは、狼のように笑った。
 立ったまま、かるがるとシェリーの腰を抱いている。
 いったん、抱かれてしまえば、もう、逃げ場はなかった。
 シェリーが手を離せば、水に落ちる。
「ぁっ、ぁんっ……ばかっ……!」
「ハアハアよがられながら耳元で罵られるのって、たまんねえな。俺、ちょっと癖になりそう」
「ぁんっ……!」
 肌と、肌を、完全に密着させて。
 赤ん坊のようにロイに抱かれている。
 それこそ手を離せば泉に背中から落ちてしまう。そう思うと、すがりつくほかはなかった。
「根本まで全部入ってるか? 痛くないか? 大丈夫か? 苦しくない?」
「やっ……あ、あんっ……ルロイ、さんの……ばか……あっ……! そんな心配してくれるぐらいなら下ろして……こんな恰好は、いやです……ぁ、あっ、あんっ……おしり……見えちゃう……はずかしいです……ううん……あっ……!」
「誰も見てねえって」
 首筋を舐められ、耳朶を噛まれて。
 愛をささやかれるたびに、腰が、知らず知らずのうちに甘く悶え、ゆらめく。
 喘ぎ声がもれる。
 吐息が、かすれる。
「でも、シェリーがこんなに積極的に抱きついてくれるなら、ずっとこのままでいようかなあ……?」
「ぁぁっ、あんっ、って、手を、離したら落っこちちゃうじゃないですか……あっ、はうん、んんっ……そんなに動いたら……中、が、ぁうんっ、んっ……!」
「そんなに感じてんのか……まあ、そうだろうな……シェリーのあそこ……さっきから揺らすたびにずっとくちゅくちゅ言ってるし」
「んんっ、ルロイさんのばかあっ……! あっ、あっ、もうっ……ううんっ……揺らさないで、ぁんっ、あんっ、んっ、ばかあっ……っ、あうん……ううんイっちゃう……!」
 ぴしゃん、ぱしゃ、っ、と、水の飛び散る音に。
 くちゅくちゅ鳴る蜜滴の音と、濃密な喘ぎ声とが混じる。
 みだらに腰を使われ、中も、外も、一番感じる部分も、全部一度に、ぬるり、ぬらり、こすり合わされて。
「だめだ。今回は、そう簡単にはイかせてやらない」
「ゃあっ……! あんっ、あんっ、そんなのゃあっ……気持ち、いい……いいの……うぅんおねがい……お月様のばかぁっ……お願いだから、はやく、ああっ、あっ、はぁっ……!」
 ルロイが腰を振るたびに、シェリーの身体ががくがくと揺れて。
 そのたびに、にゅちゃっ、ぬちゅっ、ぷちゅっ、と、あまったるい泡が噴き出して。
 つい今し方、ルロイがシェリーの身体の中に放出しきったばかりの白濁が、突き上げる勢いで押し出され、よがり声と一緒に、足下の泉へと、ぽたぽたこぼれおちてゆく。
「ルロイ……さん……動いてる……の……何とかして……止めて……わたし、もう、変な声、ぁっ、おかしくなっちゃう、うぅん……!」
「だから、しばらくは止まらないって言ってんだろ? 俺、今、最高な気分なの。このままずっと、シェリーとこうやっていたい」
「ぁ、あっ、やあんっ、ううん、もう……っ……むり、すごい、気持ちいい……奥まで……ぁ、あっ……来ちゃう……もうだめ壊れちゃう……ぁっ……!」
「まだイっちゃだめだ。まだだよ、シェリー、まだだ」
 ルロイは、すがりつくシェリーにほおずりした。
 たっぷりと濡れたキスをして。それから、ゆらゆら腰を揺らし、耳元にさえずる甘い喘ぎ声を楽しんでいる。
「ゃ、あっ、ああ……イカせて……おねがい、イかせて……」
「そんなもったいないことできるわけないだろ。ただでさえ可愛くってたまらねえのに、その上、そんな声で泣かれて、エロっちく悶えられたりしたら、我慢なんかできるわけねえじゃん。もっと……もっと、きゅんきゅん言わせたいって思うのが心情ってもんだろ?」
「ぁぁんっ、ばかっ……やぁっ、あっ……もう、お月様……お願いっ……こんなルロイさん、はやく何とかしてくださ……ぁっ、あっ、あんっ……!」
 断続的な荒々しい息が、肉の抜き差しに合わせて、吐き出される。そのたびに、ぐちゅん、ぐちゅん、と恥ずかしい音がした。
 水面に映った月影が、寝乱れたベッドシーツのようにくしゃくしゃに跳ね、飛沫を散らして激しく波打つ。
「ああ、ごめん。よく考えたら理性なんかもうとっくに吹っ飛んでた。ごめん、シェリー。もっと、やらしいこと言って、抱きついてやらしいことして、焦らして、泣かせたくて、エロいことしたくて溺れたくてたまんねえんだよな、ごめんごめん」
「ぁぁぁんっ……ばかあっ……ぁ、んっ、んっ……も、も、う……本気で……腰……抜けちゃう……!」
 突き上げられ、揺すり上げられるたび、自分の身体の重みで振り子のように戻って、深々と奥を刺激される。
 身体の中すべてが、掻き回されている。
 乳房も、腰も、髪も、全部が、がくがくと揺れ動いて。
 抱かれて。突かれて。与えられる衝撃のすべてが、快楽に変わってゆく。悲鳴があがる。
 鼻に掛かった甘い呻きだけが、とめどなく、続く。
「大丈夫だ。歩けなくても、つながったまま抱っこして帰ってやるから」
「いやぁ、そんなの……だめ……恥ずかしい……!」
「いいんだよ、どうせ帰ったらベッドで続きをするんだから。何だったら寝ててもいいぞ? その間俺、好き放題させてもらうし」
「ゃんっ……そんなっ……ばか……ぁっ、あっ、んっ……もうイっちゃう、きもちいいの……あ、あっ……! して……して……おねがい……!」
「そんなにイかせて欲しい?」
「ちっ……ちが……そうじゃなくって」
 シェリーは真っ赤な顔をルロイの胸にうずめ、悶えた。
「ぁんっ、あふっ、あっ、あ、あ、ううんっ……お月様の、ばかあっ……はやく、このルロイさんを、元のルロイさんに戻して……お願い……ぁんっ、あっ、すごい……!」
「無理だね。たぶん、俺、一生、シェリーに発情しっぱなしだと思う」
「ゃあん……っ!」
「我慢なんかできない。もっとヤる。何度でもヤるから。それは覚悟しとけよ?」
「ぁっ、あっ、ばかあ……あああんっ、気持ちいい……いいけどっ……ああん、もうだめっ……いっちゃう、イっちゃ……う……!」
「おっと、まだだ。もっと二人で楽しんでからだ」
「ぁぁんっ……! やあっ……無理です……」
「大丈夫大丈夫。もっと……気持ちよくさせてやるから。もっと、もっと、な」
「ああんっ……もう、わたし、限界……ですから……あっ、あっ……あ……!」

 終わっても。
 ルロイは、シェリーを抱きしめたまま、しばらく動かなかった。
「俺はずっと、このままでもいいけど?」
 優しく笑いかけてくる。
 シェリーは顔を赤らめた。もじもじと身じろぎして、ルロイの視線から逃れようと試みる。
「わ……わたしも……」
「も?」
 シェリーは、耐えきれず、真っ赤になった顔をルロイの胸にうずめた。
「はい……」
「この状態でシェリーのこと好きだって言っても、信用してくれる?」
「え……?」
 恥ずかしくて。
「……ルロイさん……!」
 嬉しくて。
 顔も、上げられなかった。
 優しいルロイの声が、いざなう。何度も、キスされる。ぎゅっ、と、暖かい腕で全身を抱きしめられる。
「シェリー……」
 ルロイは、にやりと笑った。
「じゃ、続きしようか」
「えっ……ええっ!?」
 結局、どんなにお願いしても、その日は朝までぜんっぜん、眠らせてもらえなかったとか何とか――

 その日から、シェリーの日課は決まった。
 どうかルロイさんが、いつまでも――やさしいルロイさんでいてくれますように。

 お月様にお願い。