" お月様
お月様にお願い! 

2 私、狼になります!

 シェリーは、ルロイの手をぐいぐいと引っ張って隣の部屋に飛び込んだ。ルロイを部屋へ引きずり込んでしまうと、出て行けないよう、後ろ手にばたんっ、と大きな音を立てて戸を閉める。
「わっ! な、何してんだよ……?」
 突拍子もない行動に 内心、ぎくぎくとたじろがされる。
 シェリーはルロイを見つめた。よわよわと揺らいでばかりだった青い瞳が、今は揺るぎもせず、ひたとルロイを見つめている。
 まっすぐにルロイを射抜く視線は、太陽の光のようにまぶしかった。
「わたしは、狼に襲われても反抗できないような、ひよわな羊なんかじゃありません。それを今から証明します」
「ど、どうやって……?」
「もう、ルロイさんのお傍に置いてください、とか。ルロイさんと一緒にいてもいいですか、とか……聞いたりしません。何でもかんでもルロイさんに頼ったりしませんっ」
 うろたえるルロイに、びし、っと指を突きつける。
 シェリーは、高らかに自分自身の未来を宣言した。
「わたし、今日から、狼になります!」
「……はあ!?」
 ルロイは眼をまんまるにした。度肝を抜かれる。
「な、何、言い出すん……?」
「欲しいものは、奪います!」
「うえっ……!?」
「この間、洗濯してたとき、みなさん、きゃあきゃあ笑っておっしゃってました。キスされたら……自分が”奪われちゃった”みたいな感じになるって」
 涙を拭い、声を振り絞って、続ける。
「わたし、その、いっつもキスされてばっかりで、自分からルロイさんにキスしたことなかったから、だからルロイさんのこと……こんなに好きなのに、信じてるって……大好きです、って、本心をなかなか言えなかったんだと思います。わたし、心を奪われるばっかりで、自分からルロイさんの心を奪いに行っていませんでした。だから、わたし、今からルロイさんの唇を盗みますっ。シルヴィさんに二度と取られないよう、ルロイさんの全部、わたしのものにしますっ!」
「はああああ!? ちょっ……ちょっと、待っ……シルヴィがなんだって? やっぱ何か勘違いしてんじゃ!?」
「ルロイさん、わたしもルロイさんみたいに発情する方法、教えてください! 棒を出す方法も一緒にっ!」
「あっ、うわっ、ちょ……あ、あっ、人間は発情しないって、うわあっ……!」
「大丈夫です! 頑張ってはあはあしますっ!」
「待て待て待てちょっと待て! 真面目に考えようと思った俺が馬鹿なのか!?」
「いいえ違います! とにかくここは、わたしの顔を立てて押し倒されてくださいっ……えいっ!」
 シェリーは、力いっぱい、どん、とルロイを突き飛ばした。
「わ、わっ!?」
 むろん――普段のルロイなら押されたぐらいでよろめくことなどあろうはずもない。
 しかしルロイは情けない声を上げてのけぞった。ぐらぐらとベッドの横で身体をふらつかせる。最後の最後に、ルロイの手がシェリーを道連れにした。
「きゃんっ!」
 二人そろってベッドに倒れ込む。ぽふん、と音を立ててクッションが跳ね上がった。ルロイがシェリーを受け止める。
「きゃあっ……! ううん、これしきのことであきらめてはなりません!」
 シェリーはぶるぶる髪を揺り動かすと、顔を真っ赤にして、ベッドの上をはいはいしてルロイを追い掛けた。
「逃げちゃだめですっ」
「ま、まさか、本気か? 逃げるに決まってるだろ……ちょい、ちょっと待って、マジで、お、お、おちおちついてシェリー!」
「逃がしません」
 シェリーはルロイに飛びついた。しっかりと首に手を回して抱きつく。
「うっ……!」
 動けなくなったところを、ぐぐ、と迫る。
「わたしだって……恥ずかしいんです。でも、発情して、狼になるにはどうしてもここでふんばって、ルロイさんの唇を強引に奪っておかないといけないんですっ……!」
「シェリー……!」
 シェリーは、掴まえたルロイを逃がすまい、と、馬乗りでルロイにのしかかった。
 どう押さえつけたものかとまごまごしながら、何とかルロイの両手首を掴んで、ベッドに押しつける。
「え、ええと、こんな感じで……いいですかルロイさん。覚悟してくださいっ」
「う、……うん……?」
「ルロイさんの唇……う、う、奪っちゃいますからね?」
「心ならもう完全に奪われまくってるんだけど……?」
「おちょくらないでくださいっ。他のバルバロのみなさんが言ってたんだから間違いないはずですっ! 心より唇を奪うほうが先なんですっ」
 シェリーは、顔を真っ赤に火照らせて、ルロイに顔を近づかせた。
 ごくり、と喉を鳴らす。
 ルロイの眼に、自分の顔が映っていた。真正面からまじまじと見つめ合う。
 押さえつけたはいいものの、自分が何をしようとしているのかを突然思い出して、耐えきれなくなり、思わず、ぎゅっと眼を閉じてしまう。息があがってゆく。ますます身体中が火照って熱くなった。
「ほ、ほ、ホントに、奪っちゃいますからね。だめって言っても、聞きませんからね……!」
 面と向かって言えず、真っ赤になった顔をそむけて。ぜんぜん素直じゃない口調でつっけんどんに言う。
 互いに、胸が高鳴って。
 呼吸が乱れて。
 どきん、どきん、追いかけ合い、響きあう輪唱みたいな音を立てている。
 それでも、ルロイと見つめ合いたい、ルロイの笑顔を見たい、ルロイの驚く顔をずっと見つめていたい。そう、思って視線を戻すと。
 ルロイの頬も、いつもと全然違う、赤い色に染まっていて。一瞬見つめ合っただけで、もうあっけなく、本心がすべてあふれ出てしまいそうだった。これ以上、自分の思いを隠しきれない。平静な振りを保っていられない。
 触れあった部分が汗ばんで、上気して、互いの心臓の音をじかに伝え合っている。
 キスすれば。
 ルロイに、キスをすれば。
 きっと、ルロイの心を奪える――
 と、思ったのに。
 よし、今度こそ、とばかりに実行しようとして、いざ眼をこじ開けてみると。
 目の前に、笑っているルロイの顔があって。見つめられると恥ずかしくて、萎縮してしまって身体が動かない。どうしても、また、目をつぶってしまう。
「……うう、だめです、負けてはいられません……何としてでも頑張らなくてはっ……!」
「シェリー?」
「は、はい」
 ルロイはくすくす笑い出した。肩を揺らして笑うたび、ルロイにまたがったシェリーの身体が上下に揺れる。
「あっ……きゃっ……!」
 力いっぱい、全体重をかけて押さえつけているはずなのに、腕一本であっさりはねのけられてしまいそうなぐらい、ぐらぐらと揺れる。
「動かないでくださ……!」
 ルロイは腹を抱えて大笑いしていた。
「あのさ、シェリー」
「……だ、だめですよ、わたしから逃げようったって、そ、そうはいきませんからねっ……!」
「いやそうじゃなくて」
 ルロイは、手を伸ばしてかるがるとシェリーの腕を掴んだ。
「あっ?」
 あっという間に、組み敷いていたはずのルロイに引き寄せられる。
「ぁっ……あれっ……?」
 手で、全身を抱きすくめられる。
「ぁっ、あっ……ちょっと待ってください……あんっ……動けません……!」
 ルロイの微笑みがいきなり近づいてきた。
「ごめん。シェリーに唇奪われるの、今か今かと待ってたんだけどさ」
「ぁ、あ、いけません、待ってくださ……」
「待ちきれなくなった」
「ぁ、だめ、ぁっ……!」
「いいから早く。いつでも奪われてやるから」
「ぇ、いえ、あの、そうじゃなくて、わたしが、その、自主的に、ムリヤリ奪うってことじゃないと、あの……!」
 シェリーはあたふたして、からみつくルロイの腕から逃れようとした。
「分かってるって。いやがって逃げ回る俺を、シェリーがあの手この手でキスして自分のものにする、ってことでいいんだろ? じゃ、それまで俺、他の用事してるから。いつでも好きなときに奪っていいよ」
「あ、あの……他のことって……え……!?」
「うん、まあ、いつものことなんだけどさ……?」
「ぁ……あっ……!」
 シェリーは顔を赤らめた。
「そ、そんなこと、されてたら……う、奪えませ……ぁ、あっ……あっ、ん……」
 くちゅ、ん、と。
 後ろから。
 指が、くねり入ってくる。
「ぁ……んっ!」
「好きだよ、シェリー。シェリーの全部が好き。こうやってるときの、そのちっちゃな声も好きだし、キスするとき、やたらもじもじしてるシェリーも好き。泣いてるシェリーも案外好きかも。ほら、俺の好きのほうが多いぞ? 頑張って奪わないと。俺が先に奪っちゃうよ?」
「ぁ、う……ん……!」
 完全に腕の中に抱きすくめられ、起きあがることもできずにあえぐ。
 腰をまさぐられて、お尻の肉を、きゅっ、とつままれる。
「ぁんっ!」
 背中が、のけぞる。密着していた身体がわずかに浮いて、肌と肌の間に隙間が開く。
 その瞬間を狙って、すかさずルロイの手が下腹部へと潜り込んだ。そわそわと指先が恥部をなぞる。
「ん……う……っ!」
 ぴた、ぴた、と、熱を帯びた塊で、もう湿りはじめてきた部分を突っつかれる。ぬぷっ……と音を立てて、先端が、潜り込んでゆく。シェリーは、みるみる頬を赤らめた。
「ぁ、ぁんっ……ひどいです……邪魔しないでくださ……ぁ、あっ……やぁんっ……!」
「足広げて。もっと恥ずかしくて気持ちいいことしてやるから」
「ぁ、あ、ううんっ……!」
 引き離すようにして身体を起こされる。先ほどまでは、ルロイを襲うつもりで馬乗りになっていたのに、今は、襲うどころか身体の自由がまったく利かないまま、腰の上に足を広げて座らされているだけだ。逃げようにも、腰の骨をぐっと掴まれて、動けない。
 ルロイのものが、お尻の下で、むずむずと動いていた。あてがわれている。羞恥心がぱっと散る朱のように押し広げられた。
 ルロイは、シェリーが転がり落ちないよう注意しながらゆっくりと肘をついて上半身を起こした。のけぞった拍子に、白い、ふんわりとやわらかな乳房が苦しそうに揺れる。
 意地悪に指で転がす下腹部の感触が、全身を快楽にざわめかせる。
「……あっ……ふ……きもちいい……」
「どこが?」
「うううん……ぁんっ、ぜんぶ……ううんっ……!」
「そんなに?」
「は……いいえ……いいえ!」
「どっちなんだ。気持ちよくないの?」
「……い……いまは……それどころでは……んんっ!」
 シェリーは涙をにじませ、とろけるような喘ぎ声をあげて眼をうるませた。ルロイの腕に抱きしめられるだけで、全身がとろとろに溶けそうになる。
 だが、今は、いいようにもてあそばれている場合ではない。
 汗みずくの真っ赤な顔で、ぶるぶるとかぶりを振る。
「ちょっと、腰、上げて」
「はい……ぁっ……あ、あれっ……?」
「そうそう、そこ」
「い、いけません……っ、ルロイさん……の……キスを奪うまで……絶対に負けませ……ぁ、あっ……っ!」
 シェリーは、きわまった声を上げた。
「入った?」
「ああんっ……ばかぁっ……はずしてください……わたしが……さきに……棒を出しますから……んっ、ん……やぁっ……! い、じわるしないで……!」
「女の子は、どんなに頑張っても”棒”は出ないから」
「あ、ぅう、やぁん……そんなことありませんっ……好き、って気持ちが”棒”になるんじゃないんですか……だったら、わたしにも”棒”が出せるはずです……ぁぁんっ、勝手に、身体が、動いちゃ……ゃ、あんっ……どうなって……!」
 腰の上に座ったシェリーは、ルロイが下から軽く突き上げるだけで風船のように跳ね上げられた。身体が上下して、馬に乗っているみたいに何度も跳ね上げられる。
「ぁっ、あっ、あ、あっ、んっ、ぴょんぴょんするのやめて、くださ、あっ……中で……きもちいいの……ああんっ……!」
 ルロイは、にやりと笑った。
「ほら、頑張ってシェリーも自分から腰振らないと」
「ぁっ、あ、あんっ……うごけない……」
 押し広げられた肉襞に添って、ぬらぬらと赤黒く膨れあがった塊が出入りする。そのたびに、ぬめる音が響き、身体が引きつり、全身にじんわりと快楽が伝わった。
「だいたい、奪うはいいけど、何でシルヴィの名前が出てくるんだよ?」
「ぁ、ん、んっ……答え……たくありませ……ぁっ……!」
「答えてくれないと、もっと悪いことするよ?」
「ぁぁんっ……! 何されても……答え……られませ……ぁ、あっ……シルヴィさんに……ルロイさんのこと、取られたくないとか……そんなこと全然……思ってませんからっ!」
「ええ?」
 身体の中を、ルロイが自由自在に動き回っている。奥の、奥の、いちばん気持ちいいところを突き上げられて、跳ね上げられて、落とされる。くちゅん、ぷちゅん、甘い蜜の音が鳴る。
「それ、マジ? ホントか?」
「ぁっ、あ、何……わ、わたし、何か言いましたか……?」
「シェリー、もしかして……嫉妬とか、してた?」
「し、し、してませんっ……わたしは、ただ……ルロイさんが……」
 顔を真っ赤にして首を振る。もう、訳が分からないぐらい、甘えた声ばっかりが押し出された。身体が跳ねるたびに、濡れた恥ずかしい滴がとろとろとこぼれた。
「ぁ、あう、はうん……んっ……」
「ああ、もう、シェリーがかわいすぎて、頭の中がどうにかなっちまいそうだ。早く、このさい何でもいいから早く俺の全部を奪ってって。さもないと、俺が先に奪っちまうぞ」
「ううん……!」
 突き上げられるたび、喘ぎ声が、甲高く押し出される。完全に”捕まった”状態のシェリーは、息をはずませながら眼をうるませた。
「にっ……逃がしませんから……」
「いや、捕まってんのはそっち」
「ちがいます……こ、っ……これは、ルロイさんを油断させる……作戦です……」
「その割には全然、余裕なさそうだけど?」
「いいえ……ま、ま、まだまだ……」
 腰を、ぐっと両手で押さえ込まれる。いっそう深くつながった身体の中を、ぬるり、ゆるり――えぐるように円を描かれて、かき乱される。シェリーは身体をふるわせた。突き上げてくる。
「ぁううんっ……、や、ぁ、っ、はいっ……ちゃいました、ホントにぜんぶ……入っちゃって、ぁ、あっ……ぁぁ……なに……!」
 奥の、さらに奥に、ぐっと嵌り込んだような感覚があった。
「お、子宮に先っちょが入ったかも」
「ぁっ、あ……なんですか、しきゅう……ぁぁん、ん、何、何、気持ちいいです……すごい、ぁぁんすごい、やだ……どうしましょ……お、お、おかしくなっちゃう……!」
 完全にひとつになる。
 触れられた瞬間、電流が突き上げてくる。身体が、びくん、と跳ねる。
「ちょっと触っただけなのに、こんな可愛い声あげられて、騎乗位であんあんよがられて、おっぱいと腰を振りまくられてさ。なのに、良い子にしておあずけくらってじっと我慢させられてる俺の立場はどうなんだって」
「あ、ぁっ……ああ……ごめんなさ……でもきもちい……い……!」
 乳房が上下左右、みだらに揺れ動く。そのたびに、めまぐるしい快楽の光が飛び散る。
「んっ、ん……だめ、ぁぁっ……すぐに……奪い……に行きますから……ルロイさ……んっ、ん、ぁぁんっ……待って……そんなにしちゃ、ぁ、わ、わたし、どうにかなっひゃう……」
「もしかして、もうイキそう?」
「……うううん……ぁっ……もっと、すごい……奥……すごい……うご、動いちゃだめらったら……」
「やられ放題にやられてるうちは狼になれないぞ? もっと大胆に、激しく、もっとエロくねだってくれないと」
「う、うぅん、だって……きもひいい……ぁん、あぁ……触っ……ああん、やっぱり見ちゃイヤぁ……」
 自分が自分でなくなったみたいに、息が乱れ、身体が乱れる。
「シェリー、かわいいよ、シェリー。エロいシェリーもかわいいけど、エロくないシェリーもかわいい。たまんないよ……ほら、見て、俺とつながってる」
「やぁあんっ……やだっ……はずかしいです……見なくていいです……!」
「悪いな。見ないでと言われると見ずにはいられなくなるのが狼の性ってもので。もうちょっとよく見たいな……足広げてくれる?」
「ぁぁんっ……いや……」
「大丈夫。実は最初から全部見えてた」
「ぁ、ああぁん……いやぁ……ぅんっ……ばか……いじわる……!」
「ごめん。俺、シェリーに、ばか、って言われるのたまらなく好き」
 あふれるぬめりをすくい取って、ルロイはシェリーの花芽に触れる。
「んっ……!」
 さわさわとかき分けて奥を探り当てた指の先が、とろり、ゆるり、円を描いて滑る。愛撫する。
 しびれるほどに快楽中枢を刺激され、身体が反り返った。
「ううんっ……! だ、め……優しくしないで……あんっ、んっ、奥のほう……イっちゃう……!」
「だめだめ。狼になるんだろ? 俺に襲われてイッちゃだめじゃん。シェリーのほうからもっと、がつがつ来てくれないと」
「む、り……無理です、あんっ、んっ、無理、ああっ……ぁっ、あ、あっ……気持ちいいの……もっと……して……ルロイさ……ん……」
「だめ」
 ルロイは、ぴたりと手を止めた。
「甘えちゃだめだ」
「ぁ……」
 目尻を上気しきった色に染め、熱い吐息をこぼして、シェリーはルロイを睨んだ。
「いじわる……!」
「俺だっておあずけくらってんだから、おあいこだろ?」
「じゃ……い、今から、襲いますから……今度こそ……いじわるしないでください……」
「いいよ。ほら、本気で襲って」
 シェリーは、とろけきった眼でルロイを見つめた。