" お月様
お月様にお願い! 

2 私、狼になります!

 息が熱くはずむ。
 ひとつにつながったまま、ゆっくりと身体を倒して、ルロイに覆い被さる。身を預ける。心を、ゆだねる。
 シェリーはルロイの心臓にそっと耳を押し当てた。
 どきん、どきん。大きな音を立てている。みるみる、鼓動が早まった。ルロイの広い胸に頬を寄せ、眼を閉じて。抱きしめられながら、ちゅっ、と、心臓の音にキスする。
「やったぁ! ついにルロイさんのハートを射止めました!」
 シェリーは歓声を上げて身体を起こした。両手を結び合わせ、腹の上でぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「……え?」
「これからは、わたしから襲います! 毎日、大好き、って言って、毎日、キスして、毎日ルロイさんの心を奪います! 誰のところにも行かないように、頑張って奪います!」
「えっ」
 ルロイは、シェリーにキスされた胸に手を当てた。ちょっとしょんぼりした顔をする。
「奪うって、ここにキスするだけ?」
「え」
 シェリーはルロイの悲しそうな顔に気が付いた。どぎまぎする。
「だって、心は……胸にあるんですよ……? 今ので奪えるはずではなかったのですか……?」
 ルロイは気むずかしげに唸った。
「うん」
「まあ……」
 たちまち、シェリーはうろたえて、手を結び合わせた。よじった手に乳房が挟まれて、真っ白なマシュマロみたいに盛り上がる。
「……どうしましょ……!」
「良い方法がある」
 ルロイは微笑んだ。
「もし、やらせてくれたら、俺、シェリーに全部……めろめろになるまで奪われてあげるけど?」
「えっ、めろめろ……ですか……?」
「うん。めろめろでえろえろでれろれろになる」
「……ええっ……!?」
 え、えっと。
 めろめろで……?
 えろえろで……?
 れろれろ……って?
 ど、どんな……すごいこと……されちゃうのかしら……!?
 シェリーは、羞恥に頬を染めた。想像の中のルロイの大胆さに、かぁぁぁ……っ! と赤面する。
「じゃ、俺のおあずけはおしまい。シェリーに奪られたぶん取り返すために、本気で発情しまくってやるとするかな」
 ルロイはシェリーにキスし、よいしょ、と身体を起こした。
 くるん、と。
 あっという間にひっくり返される。組み敷かれ、のしかかられて、抱きすくめられる。全身をたっぷりと愛撫され、くまなくキスされてゆく。
「きゃあっっ……ぁ、あっ、ああんっ……ルロイさんったらぁ、あっ……ちょっとは、ぁ、ぁ、ああんっ、待って、きもちいい……ああん、また全部奪われちゃう……!」
「俺の心を奪った罪は重いぞ? まずは全身キスの刑だ。一番気持ちいいところにキスしまくってやる」
 ……こんなふうに、襲ったり、襲われたり、笑いあえる日々がずっと、ずっと続いて欲しいから。
「ぁ、あっ、ゃあんっ……せっかくルロイさんのハート奪ったのに……ぁぁん、また取られちゃいます……!」
「そしたらまた頑張って取り戻せばいいだろ? 狼になったんだろ、シェリーも?」
「ぁ、あっ……そうでした……狼になったのでした……がるるううん……っ!」
 ……自分の気持ちをちゃんとはっきりと伝えられるようになりたいから。
「そんなかわいい声で鳴かれたら、うわあ、やべえよ俺、毎日、嬉しすぎて遠吠えしながらシェリーのこと襲いまくっちまうかも。わおおーーーん! 好きだーーー! わおおおーーーん! シェリーがーーー好きーーー! 発情しまくるからーーーー!」
「え、ええっ……そんな大声で……っ!」
 ……ふたりで、一緒に生きていく勇気が欲しいから。
「ぁぁぁ……んっ、すごい、ううんっ……ぁっ、ぁ……もっと、もっと、ぁぁ……奥のほうきもちいいです……すごい……えっちな声でちゃう……」
「いいよ、言っても。もっと声出して」
 ずっと、ルロイの腕に抱かれていたいから。
「えっ……どんな……声……」
「そうだなあ、甘えたふうに、ああんルロイさんの、ばかぁっ~~~、とか?」
「……ぁぁんルロイさんったら……」
 そこではっと我に返ったシェリーは、口をつぐんだ。頬を両手で押さえ、ぽうっと赤らめる。
「……ちょっとそれは……はずかしいです……」
「ええっ、言ってくれよー言われたいよーーー!」
「えー……いやです」
「無理矢理言わせるぞ」
「きゃあっっ……ぁ、あっ、あ……や、やだ、無理矢理なんて、ぜったい、嫌です……絶対言いませんから……ぁ、あっ、ルロイさんのばか……!」
「ぁうっ、うう、ズキンと来たぁ……もっと言って」
「い、嫌です……わたしは、ルロイさんの、優しいところが、好きなんですから……ぁっ……!」
「……うん?」
「ルロイさんの、かっこいいところが、大好きなんですから……ぁ、あ、気持ち、いいっ……すごい……ぁんっ……」
「……う、うん?」
「全部、全部、全部、だいすきなのに、そんなこと、言わせるなんて、ひどいです……ぁ、あ、すごい……何、ぁあんっ……ふわふわする……ぁっ、いっちゃう……!」
「ああ、堪らねぇ……!」
 ルロイが喘いだ。息づきが荒くなる。
「俺も、すごい、シェリーのことが好きだ、気持ちいい……きれいだ……最高に好き……全部またシェリーの中にぶちまけちまいそう……!」
 律動が激しくなった。
 一気に気持ちよさが頂点に達する。断続的に放出される快感に、身体中がうちふるえた。ふきかかってくる、熱い、満足しきった吐息が、うっとりするほど心地よかった。
「最高に幸せだ……大好きだよシェリー……」
 全身にくちづけられ、抱きしめられて、何度も情熱的に耳元で名前をささやかれる。目の前が無垢なきらめきで真っ白になった。
「ぁぁん……また……きもちよくされちゃいました……」
 いやいやをするように、シェリーは唇を尖らせた。
「ん? どうかした? 一回じゃ足りない?」
 愛おしげに胸へほおずりしながらルロイが尋ねる。シェリーはぐったりと上気しながら、力なく首を横に振った。
「今回は、やられちゃいましたけど……次は……負けないです……」
 ルロイのとがった耳に、くやしまぎれにぱく、と噛みつく。ルロイはくすぐったい声をあげて笑った。負けじといっそう身を寄せ、つながったまま、ついばむように乳首へキスする。
「何に負けないって?」
 いたずらっぽく目を輝かせながらルロイは舌を出した。長い舌を巻き付けてからめるようにして、胸のとがりをぺろり、と舐める。
「ぁんっ……もっと、がんばって……えっちな狼になって……ぅぅん……ぁんっ……ルロイさんに、もっと、もっと、恥ずかしい声……出させてやるんだから……ぁっ……!」
 ルロイにこれでもかとばかりに乳繰られ愛撫されながら、シェリーは、うっとりと気持ちよすぎる息の下、ようやくそれだけを言い終える。
「ですから……ぁ、あっ……か、覚悟しててくださいね……?」
「じゃ、もう一回やろう。次はもっと……すごいことをするからな」
「ぁぁんっ……!」

 むかし、むかしのお話です。
 とある国の。
 とある森。
 優しいバルバロの若者に愛された王女さまは、毎日、毎日、幸せに暮らしておりました。

 でも、王女さまには、ひそかなお悩み事がありました。
 それが何かと言うと、ですね──
 あんまり愛されすぎて、バルバロの若者は、いつまでたっても、王女様をベッドから解放してくれなかったのです。

 え? 本当に困ってるのかって?
 もちろんです。王女様は、本当に、お困りでしたよ……?
 本当ですって。
 毎日、毎日。あんまりにも愛されて、幸せすぎて、たいそうお困りだったそうです。

 【おしまい】