クロイツェル

5 帝国図書館 非公開書庫

 すきま風の音が甲高く響く。
「その錬金術師は、決して誰にも素顔を見せなかった。実験に失敗し、顔が焼けただれたからだ、というものもあれば、この世の者とも思われぬ美しさを隠すために、あえて、醜い仮面を付けたのだというものもいる]
「作り話だろ?」
「まあ聞け。とにかく、ヒ素から金を作り出す研究をさせられていた囚われの錬金術師は、自ら人体実験を行い、作り出した金と青銅の毒をあおって死んだ。しかしその毒には半分だけ完成したエリクシルが混ざっていたために、錬金術師は生きながら死せる身へと堕ちたのだそうだ」
「へーえ」
「全身を火で炙られても、槍で貫かれても死ねず、石の下敷きになっても死ねず……」
 ロゼルは手にした明かりで顎の下を照らしながら、肩を揺すって陰気に笑った。
「イーッヒッヒ……毎夜、毎夜、新たに死ぬすべを求めながら、今も、牢獄内をさまよい続けているそうだ……この図書館は、命をもてあそぶ大罪を犯した不死の罪人を慰めるために作られたんだ……ほら、聞こえてくるような気がしないか……イーッヒッヒ……ずるり、ずるり、鎖に繋がれて、血まみれになった引きずっている彼の足音が……振り返ると、誰の姿も見えないのに、突然目の前に……」
「……ひいいい出たあああああああああ!?」
「うわっ!?」
 リヒトは思わず耳を塞いだ。
「何て声を出すんだ。大声を出すな。うるさい」
 ロゼルも同じように耳を塞いでいた。
「びっくりするだろう。悲鳴を上げるなら上げると前もって言え。恥ずかしい奴だな」
「うそつけ、思いっきり悲鳴を上げてたのはそっちだろう」
「ごまかすな、貴様こそ女みたいな悲鳴を上げやがって」
「どっちがだ」
「そっちだろうが」
「意地っ張りめ」
「ふん」
 潜り戸の奥は、書架というよりは陰鬱な地下墓地のようだった。しん、と静まりかえっている。空気は冷たく、埃っぽく、乾いた臭いがした。
 墓石を思わせる巨大な書架がずらりと並んでいる。棚の一段一段に、きっちりと布で梱包された木箱が収められていた。まるで陳列されたミイラのようだ。上から下までミイラミイラミイラ……どこに何が収められているのか皆目見当も付かない。
 ロゼルは書架の番号を調べ始める。リヒトはランプを机へ置き、興味深くロゼルの後をついて回った。
「どこに何があるのか分かるのか?」
「だいたいは。前任者の仕事内容を精査するのも異端審問官の役割だ」
 手慣れた様子で書架の間をすりぬけてゆく。
「へえ……すごいな。ちょっと見直したぞ、ロゼル。私には何がなんだか、さっぱり分からない」
 素直に目を輝かせ、感嘆の声を上げる。ロゼルは少々照れた様子で肩をすくめた。
「別に凄くはない。どうせ調べるのはいつも領収書とか領収書とか領収書とかだ。頭痛くなるんだよ、結構。堕落していない聖職者を捜すのも最近では難しい。ま、俺も人のことは言えんが」
「ということは、もしかして、隠された秘密の書物とかもあったりするのか? たとえば、隠匿された古代魔術の書とか、異端の知を記した写本とか……?」
 リヒトは冗談めかしてはしゃぐ振りをしながら探りを入れた。声を潜める。”象の檻《ドグラ》”で見た光景を思い起こせば、あながち冗談とも言いきれない。
「馬鹿。これだから俗人は手に負えない」
 ロゼルはにやりとして一蹴した。指でぴんとリヒトの額をはじく。
「痛っ」
「妄想をたくましくするな。そういう類の秘密じゃない。非公開書庫といっても、公開する必要のない、極めて個人的な書簡であったり命令書であったり、まあそういったものだ。秘密、だなどと大仰な名を付けるから、リヒト、貴様のように勘違いする者がいる。要するに知的好奇心を満たすに足らぬ一般書類だよ。つまらんだろ、そんなもの見ても」
 ロゼルはポケットから細い眼鏡を取り出し、鼻梁にちょん、と乗せた。本格的に探すつもりらしい。
「さてと。シド・ベルネイブス主教の書簡はと」
 少年のように目を輝かせ、入念に当たり始める。棚から抜き取っては、ぱらぱらとめくり、赤茶けた羊皮紙に書かれた色あせたインク文字を、ほとんど鼻を擦りつけんばかりにして読み始める。
「余計なことを調べている時間はないぞ」
「うむ。分かっている」
 ロゼルは、うきうきと浮かれた様子で書見台から離れ、他の書架へと向かった。やはりまったく聞いていない。何やら鼻歌まで飛び出す始末だ。よほど嬉しいのか、足取りまでもがやたらとひょいひょいと軽い。
 リヒトは苦笑してロゼルの背中を見送った。
「まったく……そういうところは昔から全然変わってないな」
「ん? 何だって?」
 普段、全く見せない本当のロゼルが垣間見えたようで、微笑ましかった。
「お前と、初めて会ったときも、こんなふうだったなと思って」
「初めて? はて、いつだったかな」
 書棚に埋もれ、完全に気もそぞろになっている。
「忘れたのか。まあ、お前みたいな上級貴族にとっては、私のような底辺の学生になど、もとより良い印象もなかっただろうからな」
 リヒトは肩をすくめた。
 ロレイアが帝国によって攻め落とされたのは、リヒトが十歳、兄のリドウェルが十二歳の時だ。
 留学生という名目で帝都へ連行されたその翌日には、異教徒には決して門戸を開かないはずの神学校へ放り込まれていた。
 後に、アルトーニ枢機卿が後見人を引き受けたと知った。どういう成り行きで、滅びる定めの国の王子を引き取ることになったのか──未だに分からない。
 誰一人知る者のない、異国の学府。友達もなく、言葉もろくに分からず、孤独におびえ、ロレイアを滅ぼした帝国の殺意におびえていた。恐怖から逃れるには、一刻でも早く帝国に同化し、その思想に染まるしかなかった。
 その日もリヒトは一人で勉強できる場所へと向かっていた。神学校の写本室にこもり、こつこつと聖刻文字ヒエログリフィカの書を書き写すのが日課だった。薄暗く、あえて今さら学ぶ者も少なく、それゆえにリヒトが足繁く通い続けた場所だ。
 その写本室に、笑い声が響き渡っていた。
 長いすにだらしなく身を横たえ、足をぶらぶらとさせ、何がおかしいのか、小難しい本を読みながらけらけらと笑っている金髪の少年。
 先客に気後れし、おずおずと退室しようとしたリヒトに向かって、その少年はあろうことか、高価な本を思いっきり投げつけてきたのだった。
(わあっ! ほ、本が! 何をなさるのです……!)
(何が”なさる”だ、馬鹿者。敬語を使うなら大いなる智の蝟集にこそ敬意を払え。せっかく来ておいて、本一冊読みもせずにさっさと背を向けるとは何事だ、ロレイア人。貴様、それでも写本マニアか!)
(……はぁ!?)
 明かり取りの窓から、一条の光が差していた。起きあがった少年の顔がちょうど光にあたって、きらきらと白く輝く。それがロゼルだった。
(別に、ぼくは写本マニアなんかじゃ……!)
(じゃあ何で写本室に来る? 本を楽しむためじゃないのか?)
(べ、勉強するためです……閣下ミロード……)
(閣下ぁ!? 俺って閣下なのか!? ロレイア人、貴様、この智恵の泉を前にして、愚かしき前時代の身分制度を踏襲せんと騙るか? 分かった。貴様には、この俺様の友達となることを差しゆるす!)
(いえ、結構です……)
(何ぃ!? 貴様、この俺様の申し出を断ろう、というのか!?)
(……何だかちょっと面倒くさそうですし……)
(ちょ、お願い、断らないで。頼む。俺、写本マニアの友達が欲しかったんだ)
(だからぼくは写本マニアなんかじゃ……)
(写本マニアじゃなきゃ、写本室には来ない。ここの連中が写本室なんかに来るか?)
 核心を突く微笑がリヒトを見つめていた。
(図星だろ? 正直、俺もここの連中には飽き飽きしていたんだ。ギウロスみたいな高慢ちきのろくでなしばっかりでさ……)
 そのとき初めて、リヒトは他人の笑顔をまぶしく思った。今も薄れることのない、かけがえのない記憶だ。
 ごとり、と背後で音がした。棚差しの本が倒れたのかもしれない。リヒトは過去の記憶から引き戻され、我に返った。
「失敬なことを言うな。忘れるわけがないだろう……ええと……あー、何だったかな……あ、奥にも書棚があるな。あっちを見てこよう」
 ロゼルはランプを掴んで奥の保管庫へと消えた。闇の向こうに赤い光がほのかに揺れている。
「どうやら、この書庫にベルネイブスの記録簿はなさそうだ」
「何を探してるんだ。時間がないんだぞ? 海賊ごっこじゃあるまいし、誰かが部屋のどこかに隠した秘密の地図を夢中になって探すとは、物好きも甚だしい」
 リヒトは苛立ちの声を上げた。閲覧時間は残り少ない。一刻も無駄にはできないのだ。嘆息し、苦言を呈する。
「偉大なる先達のことは忘れてくれるんじゃなかったのか」
「分かってる、分かってる。まあそうがみがみ言うな。古文書と都市伝説は男の浪漫、こんな宝の山に埋もれてわくわくしない貴様がおかしい。それにしても、おかしいな……ベルネイブスの書簡集がないとは。誰かが持ち出したのか?」
 光が揺れ動いて戻ってきた。小脇に数冊の書類綴りを抱えている。リヒトは眉宇をひそめた。
「どこが宝の山だ。古手紙の束じゃないか」
「それが宝だと言うんだ。うっひょ、ぞくぞくするなあ、どこにどんなお宝が混じってるか分からんぞ」
 昂揚した気分を露呈した頬が赤く染まっている。食い入るように書類の束を見つめる目の輝きは、まるで転がる宝石のようだった。当初の目的など完全に吹っ飛んでいるらしい。
「私よりお前の方がずっと写本マニアだ」
「だって面白いんだから仕方ないだろう。貴様、この智恵の源泉を前にして……」
 ロゼルは、ふと口をつぐんだ。顔を上げ、にやりと笑う。
「十年も昔のこと、よく覚えてるな」
 ……忘れられるはずもない。
 そう答えようとしたが、苦笑するにとどめておいた。あまりにあの日のことが嬉しくて、未だにずっと忘れられないでいる、だなどと。いちいち馬鹿正直に本人の前で申告してやる必要もない。ただでさえ唯我独尊のロゼルをさらに調子づかせるだけだ。
「さてと、」
 平たい書類入れの木箱を下ろし、いそいそと机の上でひもとく。
「少しぐらい楽しませてくれたって良いだろう。な? な? ベルネイブスは、異端審問官界でもっとも有名、かつ伝説的な審問官なんだ。彼が使っていた万有知の書パンソフィアは、聖遺物としてメゾネアの礼拝堂に収められたんだが、未だに奇蹟を信じる信者たちがひきもきらず詣でている、という話だからな。言い伝えでは、彼によって異端の疑いありとして裁判にかけられたものの数は数百にも上る。が、その中の誰一人として有罪になったものはいない。なぜなら、彼が神の名の下に罪を裁いた全員が全員とも……」
「ロゼル」
 リヒトはごほごほと音を立てて咳払いした。ロゼルがきょとんとした顔でリヒトを見やる。
 とたんに、ぎょっとした顔に変わった。眼鏡が鼻からずり落ちる。
「さ、さてと、下らないおしゃべりはやめにして、仕事するかな」
 ロゼルはあわてて口をつぐんだ。眼鏡をいったんはずして、首の骨を鳴らし、肩をほぐす。
 あたふたと眼鏡を掛けなおすと、書類の束に顔を近づけた。その書は、比較的新しい羊皮紙を綴じたものだった。
「何だ、それは」
「俺たちが探している一連の異端審問官殺害に関する記録簿だ」
 先ほどの幽霊屋敷の話といい、ベルネイブスといい、いっぷう変わった、興味深い話ばかりをする。要するに根っからの好事家なのだろう、と思った。本来のロゼルは、決して軍人でも聖職者でもなく、古い資料を片っ端から当たって歴史を編纂したり、本の山に埋もれた部屋に閉じこもることに至福の喜びを感じられるような男なのかもしれない。
 そのくせ、大聖堂の構内で見せられた槍術は、恐ろしいほどに切れ味があった。人間の急所──頸動脈、大腿部の動脈といった──ひと突きで相手を死に至らしめる箇所を明らかに狙った暗殺者の手練だ。相当に動揺して手が震えていながら、あの切れ味だ。思い出すたびに、血がぞくぞくと騒いだ。いつか、ロゼルと本気で手合わせしてみたい。きっと楽しい遊戯になる。
「真面目にする気なら最初からそう言え」
「まるで俺が普段から不真面目だと言いたそうだな」
 笑いを交えながら、書類を机の上へ積み上げてゆく。と、綴じていた紐が切れて、羊皮紙の束が床に滑り落ちた。ロゼルの表情が変わる。
「どうした?」
 ただならぬ表情に気付いて、リヒトが尋ねる。ロゼルは舌打ちした。手を伸ばして書類を引き寄せ、ページを繰る。眉根が寄せられた。
「やられたかもしれん」
 押し殺したうなり声を上げる。腰を据えて書類の中身を確認し始める。
 ロゼルは法衣を脱ぎ、シャツの袖を肘までまくった。拳でこめかみをぬぐう。
「調査書が抜かれてる。ホドヤック村、パレシア村、セラヴィル地区……だめだ。大半がごっそりなくなってる。盗まれたのかもしれん」
「何だと。いったい、何者が……」
 言いかけて、リヒトは自嘲気味に鼻先で笑った。愚問だ。答えを尋ねるまでもない。
「俺が見たときは間違いなく全巻そろっていた。貴様を帝都へ連れ戻せ、という命令が下って、まさか、あれの他にまた貴様と”教団”に何か関係がある証拠でも見つかったのかと思ってな。おそらく、それ以上詮索されては困る者が、中身を抜き取ったんだ」
 ロゼルは険しい表情で何度も同じページを行ったり来たりし、内容を確かめた。やはり結論は同じだ。失望の吐息が漏れる。
「だめだ、やっぱり抜けてる」
 ランプの炎がロゼルの陰影に沈んだ表情をほの暗く照らし出した。苦い表情がゆがむ。
「盗まれていないもの、完全な形で残っているものはないのか」
「……一つだけあったが……」
「見せてくれ」
 闇夜に射した光。リヒトは希望に胸をふくらませた。数少ない手がかりだ。少しは先が見えるかもしれない。
「これだ。見たければ勝手に見ろ」
 ロゼルはなぜかやたらとうんざりした顔で手にした一冊の記録簿を指し示した。中身を見ようともせず、押しやるようにして書類の山から滑り落とす。記録簿は机に角を当てて跳ね、ばさりと散らかった。
「丁重に扱わなくていいのか」
「いい。こんなものクソ役にもたたん」
 ロゼルは拗ねたような声を上げた。いらいらと表紙を手で叩く。
「読む必要すらない」
 リヒトは困惑の表情でロゼルを見やった。
「なぜそんなことが分かる? もしかしたら有用な記録かも知れないだろう」
「んなわけあるか」
 ロゼルは苛立たしげに鼻息を荒くした。腰に手を当て、肩をそびやかせる。
「俺が提出した報告書だからだよ」
「……は?」
「俺が命を狙われたと申告したときの報告書だ。見ろよ、最後のページ。気のせい、って裁可が書いてあるだろ。まったくむかつく奴らだ。泥棒も泥棒だ、俺の調査報告書なんか、盗む価値もないってか。ああ、腹が立つ」
 リヒトは思わず吹き出した。ロゼルの顔を見て、あわてて表情を引き締める。ロゼルは煮えくりかえった複雑な笑顔でリヒトを睨んでいた。まなじりが吊り上がっている。よほど不愉快だったらしい。
「だが、命を狙われたのは本当だろう。何か手がかりの一つでもあれば、まだ何とか対処のしようもあっただろうに」
「うるさい。俺が命を狙われたのも、俺の目の前で主教が殺されたのも、万年寝ぼけ眼の聖人どもにとっちゃ全部が世迷い言なんだろうよ」
 先ほどまでは自分もその聖職者だったくせに、すっぱりと割り切った顔で憎々しげに毒づく。
 リヒトはあわただしくページを繰った。羊皮紙の端を掴み、音を立ててめくる。
 誰かがしおり代わりのしるしをつけたのか、紙の端が折れている。開いてみると、インクらしき茶褐色の跡が付いていた。汚れた手で書類に触れたのだろうか。
 帝国の知識階級ともあろうものが、夕食の鶏肉を食べた指の汚れをそのままにして読むような真似をするはずがない。
 聖教会の者であれば誰しも帝国言語リンガインペリアルの読み書きができる。人々が普段遣っている文字とはまったく違う聖刻文字ヒエログリフィカによって記された、支配者による支配者のための筆記言語だ。聖職者は、一般人には理解できない文字で書かれた蔵書を読み、密書をしたため、古文書を写本する。万有知の書パンソフィアもまた、単なる書物ではなく、聖なる神の言葉を書き写した”鏡”であるとされている。よって、一字一句異なる文言があってはならない。写本の独占、知の独占こそが特権につながることを、聖職者たちは良く知っているのだ。
 だが、中には、知識を駆使する特権階級に力が与えられるのではなく、書かれた”書”そのものに奇蹟の力が宿ると主張する異端思想もある。消された歴史。消された民俗。消された記録。呪いと恨みを込めてつづられた書が、古代から連綿と伝わり、闇の書となる。後生へ恨みを送り届けようとする書そのものが、人知を越えた神秘と怪奇の力を宿す、と。
 迷信だ、と一概に振り捨てることはできない。
 書の力は現実に存在する。それは、神秘的な聖刻文字がそうさせるのではない。書にまつわる人々の思いそのもの──込められた憎しみ、欲望、そして野心がそうさせるのだ。
「この他は?」
 希望の響きをかすかに秘め、リヒトはたずねた。だが、ロゼルの返答は端的だった。
「ないな」
「そうか」
 リヒトは肩を落とした。
 期待していただけに、失意も大きい。今日一日の出来事でたまった疲労が一気にぶりかえす。全身が岩を背負ったような屈服感にこわばっていた。
 追っ手から逃れるために必要な時間をあえて削ってまで、地の底の暗闇に潜り込んだというのに。
 大量の書物に埋もれて発見したのは、当のロゼル自身が書いた何の役にも立たない報告書一通だけだとは。
 ”教団”へつながる手がかりは、すでに失われたあとだった。
 すべてが無駄足だったのだろうか。謎めいた教団へ至る道は、最初から閉ざされていたのだろうか。
 ロゼルの眼がリヒトを見つめていた。
「……どうする?」
 探るように問いかけてくる。

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