4 きっと、もう。この言葉は――届かない

 あえなく吐息の洩れる唇を深く奪われ、舌をからめ取られて、とろりとした欲望に混ぜ合わされる。
「う……んっ……」
 みだらに広げた聖神官のコートの上で。
 アリストラムは。
 ラウの手首を片方だけ地面に押さえつける。
 もう一方の手は、愛おしげに指をからめて。
 理性の消え失せた視線だけが、ラウの向こうにいる誰かを探して、さまよっていた。
 唇を重ね、かすれた声でささやく。
「早く、命令してください」
 身悶えるような吐息が。
 耳朶に、ふっ、と吹きかかる。
 身体が、びくっ、と震える。
「ぁ……っ!」
 耳元を通り過ぎてゆく、甘いささやき。
 唇が、押し当てられる。熱い湿り気が、肌に汗を滲ませる。
「ぁっ……あ……!」
 切なくも苦しい吐息とともに、胸を、揺り動かされる。舌の先が、汗ばんだ肌を、ちろ、ちろ、と舐める。
 全身に、電流みたいな快感が走った。
「……あ、あ……!」
 胸の先を、とろけるような口に含まれて、舌の先で、過敏すぎるほど張りつめた乳首を転がされる。
 とろ、とろ、舐められ。時に、きりっ、と痛むほど噛まれ。
 そうしながら。
「ぁ、あっ……やだ……」
 そろそろと腰へ手が、滑り落ちてゆく。
 ラウは無意識に身体をアリストラムへとゆだね、ひらきながら、それでも支配されつくしてゆく感覚に抗って、ほろほろとうずめ泣いた。涙が止まらない。
「……違う……」
「ゾーイ」
 熱情に浮かされた吐息がラウを包み込む。普段のアリストラムならば決して立てぬようなみだらな音を立てて乳房を吸われて。
 欲情の手で、揉みしだかれ。
「や、やだ……あ……!」
 指先が、秘めやかな茂みを、かき分けた。
 窄みを、探っている。
 ゆっくりと……快楽の在処を……探られ……。
「ぁ、あ、あっ……!」
 いささか、けだものめいた苛立ちを秘めた手の力が、ラウの太腿をまさぐる。
 押しやられる。
 くちゅ、ん、と。
 濡れたちいさな音がどこかから聞こえた。ラウは思わず胸をのけぞらせ、喉に綿を詰めたような息を漏らした。
 何も、聞こえなかった。
「あぅ……!」
 今まで一度も感じたこともないような、しびれるような、初めての……感覚が、その、指の先の優しい動きから、爆発したみたいに伝わってきて。
「あ、あり……アリス……ぁっ、あっ、何……ど、どこ……触って……何なの、こ、これ……ぁっ……!」
 声が止まらない。泣くような、笑うような、うわずった自分の声に、ますます身体の奥がびくん、と震え上がる。
 何も、聞かなかった。
「足を、もっと、開いて」
「ぇっ……!」
 ラウは涙混じりに拒絶しようとした。
「や……だっ……だめ……」
「もっと、よく、見せてください」
 優しい熱情に、ほんの少しだけ、強情な力が交じる。
「ゃ……ぁっ……」
 ラウは拒絶しようとして、わずかに腰をずり上げた。アリストラムは強引にラウの腰を押さえ込んだ。
「貴女の、すべてが見たい」
「……ん……っ……アリス……!」
 甘やかな……喘ぎが。
 途切れる。
 銀の髪が、全身に降りかかった。
 腰が持ち上げられている。まるで翼みたいに、左右に大きく、膝を、高く掲げられて。
 押し広げられる。
 ぁ、あ、やだ……こんな…… 
 何もかも、アリストラムの眼の前に、全部……ぜんぶ……広げさせられ……
「はず……かしいよ……こんな恰好……!」
 熱に犯されてこわばっていたはずの身体が、激しく、揺れ動く。
 汗ばんで、震えて。おびえている、はずなのに。
 見られていることに、逆に、感情が昂ぶってしまう。
 欲情のしずくが、切ない吐息と入り交じった。
 とろり、と、糸を引いて。
 あふれる。
「……あ、あ……っ!」
 露わにされた、それを。
 アリストラムの舌が、ちろり、絡みつくようにまさぐった。
「ゃっ、や……ぁっ……!」
 押し包まれた襞を、ゆっくりと、何もかもを晒すかのように、左右に、押し開かれて。
 刻印の光が罪深く降りかかった。
 ラウは眼を閉じてなお染み込んでくる翡翠の光に身悶えた。
「もう、こんなにして」
「あっ……」
 ゆる、ゆる、と。
「いけないひとですね……」
 指で、快楽の波紋を描き出すように。
「ぁ、っ……やぁっ……アリス……あ、あんっ、いやぁっ……やだっ、あ、どうして、あ、あっ……!」
 ぴくんっ、と。足の先まで震え上がる。
 触れられるたびに、腰の奥が、息を呑んだように跳ね上がる。
 開きかけた花芽のような、それを。
 とろとろの甘い蜜をこぼす、その蕾を。
 快楽のささやきで、そろり、そろり、愛撫されて。
 今、アリストラムが何をしているのか、自分が何をされて、どんな格好でいるのか、このあと自分の身体がどうなるのか……
 分からない。分からないのに、全部、知っているような気がした。
 次に突き上げてくる感覚は、きっと、もっと、もっと、凄い――
「ぁ……」
 犬が水を飲むような音が聞こえた。
「……ゃっ……!」
 ふいに、身体の奥が熱くなった。
 舌が、ぬるり、と動いて――
 ぁ、あ、舌だけじゃ……ない……
 もっと、固い……指……指……?
 頭がおかしくなったみたいだった。自分が、何を、思っているのか、どんどん、分からなくなってゆく。壊れてしまいそうだった。
 入ってくる……!
 じっとりと濡れて、赤く、腫れ上がったようになった、そこに。
 とろり、とろり、と。潤む音を立てながら。
 指が。
 身体の、中に、入って……!
 一本、だけじゃない……舐められてる、だけじゃ……ない……
 ぁっ……
 あ、あ、あ……や、だ……くちゅ、くちゅ、言ってる……!
 ……舐められて……出し入れ、されて……
 何本も、一度に指……入れられてる……のに……


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