9 もっと恥知らずなことを……したいのです

「……あ、アリス……!?」
「良い子ですね、ラウ。では、服従の姿勢を」
 口を、優しくこじ開けられる。
「えっ……えっ……はい……じゃなくて、えっ、えっ、何、あたし、何……されちゃうの……!? ぁ、あっ、う……!」
「もうすこし口を大きく開けて。さもないと……全部入りませんよ?」
「ぁ……うっ……ぁ……」
「……苦しくありませんか……?」
「ぅ……ん……っ……」
「舌を動かして」
「ぅ、う……ん……?」
「そう、上手ですよ、ラウ……」
「っ……」
「ああ、そうです……そんな……感じで……ぁあ……できたら、もっと……ああ……激しくお願いします」

 口の中の、アリストラムが。
 びく、っ、と跳ねるように動く。
 あふれてくる。

「もしかして……きもち、いいの……?」
「……」
 アリストラムはすぐには答えない。
 ラウは、半開きにしたくちびるで、もう一度、触れた。上から聞こえてくるアリストラムの喘ぎが、かすかに強まる。
 ちょこん、と舌を出してみた。つついてみる。
「あっ」
 小さな声が聞こえる。
「?」
「何でも……ありません……!」
 狼狽したふうな声が降ってくる。ラウは、もう一回、ちろり、と舐めてみた。
「う」
 また変な声が聞こえる。
「……」
 ちょん。
「うっ」
 ちろり。
「あっ……だめです……」
 唐突に抱きしめられ、いきなり押し倒される。
「……きゃうんっ!?」
 唇を重ねられる。今までにない激しさでアリストラムはラウを抱きしめた。
「もう、我慢できない」
 熱い吐息が降りかかった。肌が、交わる。
 熱情になぞられる肌も。胸も。身体の中も。
 何もかもが――アリストラムにうずめられてゆく。つながる。
 熱を帯びた塊が、下腹部に押し当てられる。
「あ、あっ……ぁ……!」
 押しのけられる。身体の中に、熱い、大きなものが入ってくる……!
「ぁんっ、んっ……!」 
「あ……っ」
 アリストラムはわずかに急いた息の乱し方をして、ためいきを洩らした。
「し、しまった……つい入れてしまいました……!」
 子どもに戻ったかのような、どこか情けない声でつぶやく。
「もっと焦らしていじわるするつもりだったのに……つい」
「アリス……?」
 肌を重ね合わせたまま、アリストラムはなぜかうろたえている。
「何と言うことだ……私ともあろうものが……焦って、手順を間違えるなんて……」
「え……」
 ラウは後ろ手に縛られたまま、アリストラムにほおずりした。縛られたままで良い。こわばった身体をやわらげながら、そっと交わした唇を食む。
「……手順なんていらないもん」
 アリストラムらしいと言えば確かにそれらしい言い草だ。こんなことしてる最中に、”手順”、だなんて。
「……好き……好き……だいすき……だからして……これ以上焦らされたら、おかしくなっちゃう……」
 もっと、もっと、深く、交わり合う。
 キスして、肌を合わせて、互いに腰をうねらせ、求め合って、何度も、何度も唇を、声を、吐息を、熱くからめ合ってゆく。
 そのたびに身体の中のアリストラムが熱情の張りを増し、荒々しくも跳ねて、膨れあがる。
「……ぁ……ぁ、あ……っ好き……! して……して……きもちいい……」
「私も」
 アリストラムは、揺れるラウの身体をぎゅっと抱きしめた。
 照れたような、かすかな苦笑いが降る。
「……大好きです」
 腰を抱かれ、押し開かれ、くちづけを肌に落とされながら、中をそっと揺らされる。まるで激しさのない、ゆりかごのような感覚だった。
「う……ぅんっ……」
 快楽に身体中が押しのけられてゆく。
 さらに切なく、甘く、深い奥の奥まで、息苦しいほどの熱塊に押し広げられ、うずめられていく。
「あ、ぅうん……くぅ……ん……!」
 こぼしきれないほどの甘い声があふれる。
 アリストラムの吐息が熱く吹きかかった。
 いつも、決して乱すことのない呼吸が、すがりつくかのようにみだれ、弾んでいる。汗に貼り付いた髪がひやりと肌に触れる。
 ひくい呻きが聞こえる。
「ラウ」
「あり……しゅ……ぁっ……ぁ、ぅん……っ……!」
 身体中が揺れ動いている。
 とろける甘い蜜が練り込まれてゆくような感覚が身体の中で泡立っている。
「ぁっ、うぅん……気持ち……いいの……気持ちいい……すごい……ぁんっ……!」
 くちゅ、くちゅん、と音を立ててこぼれるしずくが、熱い、固い、ますます激しさと優しさとを増してゆくものにすり合わせられて混ぜられ、突き回された。
「う、んっ……」
 狂おしいまでの愛おしさが濡れた身体の裡をこすり上げるように突き上げる。
 ぬちゅっ、くちゅっ、音が鳴る。
 快楽の波が引き、またぐるりとよじれながら、めくるめく感覚をぐいと突き入れてくる。
「あ、っ……んっ……好き……!」
 突かれ、奥まで深く、これ以上ないほど密着しつつ、練るように奥まで突き上げられる。
 ぐちゅぐちゅと腰が揺れる。濡れそぼった感覚が密着する。高まる。
 すべて、全部、見られたい……!
 広げて、広げられて、真っ赤に充血した快感の中心を、アリストラムに見て欲しかった。
 自分には見えないけれど、きっとアリストラムからは見えているのだろう。
 ぬるり、ぬらり、と、荒々しく出入りする、それの様子を想像するだけで――ぞくぞくして。
 逆に、恥ずかしさのあまり、ふるえあがりそうになって。
 ラウは、あえいだ。
 擦れ合うぬめりがこぼれ、ねっとりと糸を引いてしたたる。
「あ、あたし……は……恥ずかしい……カッコ……してない……?」
「全然」
「ほ、ホントに……?」
「恥ずかしくなどありませんよ」
 昂揚し、うわずったアリストラムの声が応える。
「それを言うなら私の方です。貴女を……こんなふしだらな格好にさせて、いやらしくも興奮しているのですから」
「……!」
「もっと恥知らずなことを……したいのです。貴女を、もっと」
 アリストラムの腕がラウをやすやすと抱き上げた。快楽のくびきで深く繋いだまま、姿勢を入れ替えさせる。
「は……ぁぅぅん……!」

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